文化庁 平成29年度「国語に関する世論調査」の結果についてが9月25日付けで発表されました。
その中で慣用句について「どちらの意味だと思うか」という質問があり、「なし崩し」という用語があげられ、その正答率が公表されています。
「なし崩し」の世論調査結果
質問としては
なし崩し(例文:借金をなし崩しにする。)
(ア) なかったことにすること
(イ)少しずつ返していくこと
(ウ)(ア)と(イ)の両方
(エ)(ア)、(イ)とは、全く別の意味
分からない
とされていました。回答はアが65.6%で一番多く、イが19.5%、次に続くのが分からないの8.5%でした。皆さん答えはわかったでしょうか。ひいらぎやのイメージとしてはなしくずしにといわれると、なあなあになんとなくそっちに流れていってしまったというようなイメージがありました。
正解はイの少しずつ返していくことです。大半の人が回答を誤っており、どんどん使い方が変わっていっていることがわかります。とはいえなし崩しという言葉自体あまり使わなくなってきているのでこのような状況になるのでしょう。というかひいらぎやのイメージは回答にすらなかったです。
では「なし崩し」という言葉の語源は?
もともとはなし崩しという言葉は借金の返済を少しずつしていくというところからきており、漢字にすると済し崩しとなります。
三省堂のスーパー大辞林3.0を引いてみると、
①借りた金を少しずつ返済していくこと。「借金ヲーニスル/和英語林集成」
②物事を少しずつ片付けていくこと。転じて正式な手続きを経ず、既成事実を少しずつ積み上げること。「事業計画をーに消化していく」「既得権をーに形骸化していく」
とあります。
同じく済し崩しの「済し」の部分を「済す」で引いてみると、
①支払うべきものを支払う。「舟賃ー・して越し給へ/義経記七」
②借りたものを返す。「先の世に借りたをー・すか今貸すか/滑稽本・東海道中膝栗毛初」
とあり、やはりお金や借りたものを返すという意味ですね。
というわけで、「済し崩し」というのは崩すように少しずつ済していくことであり、それが転じて、お金に限らず物事を少しずつやり遂げることとなり、正式な手続きを経ずというところから少しネガティブな印象を持ちつつ、既成事実を積み上げて行くこととなったのでしょう。
そういうところからこっそり少しずつ裏から既成事実を積み上げて終わらせる=なかったことにするというイメージがつきアの回答につながったと想像出来ます。
言葉は生き物であり変わっていくもの。それでも元の意味は押さえたい。
「新しい(あたらしい)」という言葉はもともと「あらたしい」であり(漢字で読んでもそうですよね)、現在ではあらたしいではなくてあたらしいが正しい語とされています。こうやって言葉が変わっていくのは自然なことです。ただ、このところニュースを聞いていても、そう、もちろん従来のように十分に訓練を積んだアナウンサーではなくて一般の方が簡単にニュースを発信出来るようとなった現在に至っては、単純な読み間違い、発音の間違いなどは非常に多いです。もっとも間違えてはいけないだろう固有名詞である人や企業の名前ですら堂々と間違って報道されていたりもします。
そういった中ではもともと何が正しくて今聞いたことが正しいのかそういったことを念頭に置いて生きていくことが必要になっています。これは特に災害時などにデマが流れるのも同じです。通常からしっかりとこのような点に気をつけた生活をおくり、非常時にも備えたいですね。
物事を済し崩しに進める?
さて、では物事を済し崩しに進めるという事は良いことでしょうか。少しずつ着実に進めるという意味では良いことです。ただ、既成事実を積み上げてと言うと前述の通り少しネガティブなイメージがあるかも知れません。
着実にしっかりとマイルストーンを決めながら事実を積み上げていく。これ、ブログの記事数を積み重ねていくのも同じですし、「外堀を埋めて」ここまでできたら僕・私の主張を通してください!ということを行うための戦略としては良さそうです。
逆に誤用である方だと、その時々の勢い、雰囲気に任せてすすめるということとなり、しっかりしたゴールをもたずに事に当たっているという意味となり良いイメージはありませんね。
是非正しい方の「済し崩しに」すべての事柄に取り組みたいものです。
(この記事は2018年9月26日 7:09 PMに公開した物を改変した物です)